わたくしずいぶん前から、てっきり自分も齢を重ねれば自然勝手にナイスな高齢者になれるんだろうなとばっかり思ってたいたのですが、どうもひどい勘違いだったみたいです。実際のところは40で学位をとった途端おもむろに惑い始め、50で単身赴任となっても天命など一向に見えず見ようともせず、60過ぎて再雇用となった身ですが人に少しでも悪く言われた日にゃ、たちまち臨戦態勢からの倍返しです。今日この日までの来し方で何を成したでもなく、これからの行く末で何を為すのかも定まらない不毛な日々。ふと振り返れば、日々の些末事に一喜一憂して心が乱される煩悩の塊のような小者にすっかり成りきっておりましたとさ。そんなわたくしある日思いました。「はて、このままつまらぬつまらぬと言いながらその生閉じてよいものか??」 迷って迷って血迷って、このたびわたくし新たに本屋さんを営むことといたしました。その屋号には今のおのれをいみじくも表す ” 凡夫 “ を名乗って、日々自らを戒めつつ努めることといたす所存です。
昔から本屋さんで面白そうな顔をした本を探す時間と空間が大好きでした。まず並ぶ面子(本)の顔から棚のにおいをかぎ取ってここぞという棚に向き合うなり、そこに並ぶ本のタイトルや字体、レイアウト、帯の惹句、厚さや重みや装丁だけから “今日の一冊!” を選ぶいわゆる “ジャケ買い” というやつです。立ち読み厳禁あたりまえ、仮に開いても目次まで というマイルールです。週末になるとお気に入りの本屋さんとCDショップ(ずっと昔は貸レコード屋さん)をはしごして、このジャケ買いを心ゆくまで楽しんだものでした。これまでなにかと家移りが多い暮らしだったのですが、新しく根を下ろしたどの町でもこういった遊びができるお気に入りのお店を見つけてきました。ところがこの十年ほどでしょうか、こういった好ましいお店がどこに行っても全然見つからない。どこに行っても大型のチェーン店しか見かけない。そりゃチェーン店にだってマスターピースは石に交じって並んでるんでしょうが、場所が違う。におわない。さてどうしたものか? パンが無ければケーキを食えよとその昔マリーちゃんが言ったそうだがそうじゃない。→どうする?→自分で作る?→できるかなぁ?→できるんじゃね?→そういやなんか前からやってみたかったんだよね! という感じでたったの三日ほど悩んで決めました。凡夫ごときがせいぜい思いつきそうな話です。令和の虎なんかに出た日にゃ秒でナッシングです。やってみて痛い目見ないとわからないところが凡夫の凡夫たる所以です。
とまあそんな能書きから始めたことですので、Eコマースとはひとまず距離をおいて、リアル棚のみでやってみたいと思います。とは言え一介の定年再雇用の会社員風情にいきなり独立店舗を切り回せるほどの才格やら甲斐性やらがあるわけでなし。ここはひとつ「一番高木が塁に出たら二番谷木は送りバント」の故事に倣って、できることからコツコツと。ブックマンション “HONYAらDO” さんに身を寄せて、一棚店主として始めることといたしました。まずはこちらでどれだけ “におう棚” を作りこむことができるものか、いろいろあがいてみたいと考えております。皆様どうぞ嗤わば嗤え、そして嗤うのにも飽きたその後もしかして、わたくしの棚のどこかにかすかにでも “好き“ を見つけていただけたならば、凡夫はそれだけで成仏できます。とにもかくにもまずはどうぞ一度ご覧いただきたく、皆様のお越しをお待ち申し上げております。
令和7年9月吉日 凡夫